あの頃のカラオケルームには、
少し高めの声と、炭酸の匂いが漂っていた。
笑いながら、ふざけながら、
それでも真剣に――誰かの歌を、聞いていた。
「Happiness」のイントロが流れると、
なぜだかみんな、元気なふりをした。
元気だったのかもしれない。
でも今なら、あれは祈りだったとわかる。
「Love so sweet」も、「Believe」も、
なぜか“自分の歌”みたいに馴染んでいた。
歌詞の意味を全部わかってたわけじゃない。
でも、メロディが心の形にぴたっと合っていた。
「Bittersweet」を選んだ日は、
少しだけ、大人になりたいと思っていた日。
「言葉よりも大切なもの」は、
そのくせ、言葉でしか守れなかった想いに触れた。
“なんだかんだ見ちゃう”
そう呟いたとき、
画面の向こうの嵐は、
まるで「ちょっと上のお兄ちゃん」みたいだった。
追いつきそうで追いつかない。
でも、いつもそこにいてくれる。
安心と憧れの間で、
ぼくらは歳を重ねていたんだと思う。
そして、今。
時代はそっと背を向けて歩き出す。
誰も手を振らなくても、
音楽が去るとき、風は少しだけ静かになる。
過ぎゆく時代を眺めながら、
ぼくは、あの歌たちを――
「歌っていた自分」を、思い出している。