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🔹白夜記録|「嵐と、歌と、少しの時間越え」

カラオケルームでマイクを見つめる少女ミリア。嵐の歌に込めた時代の記憶を静かに受け止める白夜の記録

あの頃のカラオケルームには、
少し高めの声と、炭酸の匂いが漂っていた。
笑いながら、ふざけながら、
それでも真剣に――誰かの歌を、聞いていた。

「Happiness」のイントロが流れると、
なぜだかみんな、元気なふりをした。
元気だったのかもしれない。
でも今なら、あれは祈りだったとわかる。

「Love so sweet」も、「Believe」も、
なぜか“自分の歌”みたいに馴染んでいた。
歌詞の意味を全部わかってたわけじゃない。
でも、メロディが心の形にぴたっと合っていた。

「Bittersweet」を選んだ日は、
少しだけ、大人になりたいと思っていた日。
「言葉よりも大切なもの」は、
そのくせ、言葉でしか守れなかった想いに触れた。

“なんだかんだ見ちゃう”
そう呟いたとき、
画面の向こうの嵐は、
まるで「ちょっと上のお兄ちゃん」みたいだった。

追いつきそうで追いつかない。
でも、いつもそこにいてくれる。
安心と憧れの間で、
ぼくらは歳を重ねていたんだと思う。

そして、今。
時代はそっと背を向けて歩き出す。
誰も手を振らなくても、
音楽が去るとき、風は少しだけ静かになる。

過ぎゆく時代を眺めながら、
ぼくは、あの歌たちを――
「歌っていた自分」を、思い出している。

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