沈黙と不安のあいだで
「返事が、こないんです……」
アキラがスマホを見つめながら呟いたのは、夕方の喫茶さくや。
窓から差し込む柔らかな光に照らされたテーブルで、彼は眉を寄せていた。
「既読はついてるのに、3日間、ずっとそのままで……」
目の前には、紅茶と一緒に小さなお菓子の皿。
その向こうで、セリナは小さく頷いて言った。
「アキラくん、それって『言葉が浮かばない』時かもしれませんね」
目次
🕊️物語|やさしさの静かな翻訳者
「言葉が……浮かばない?」
「ええ。わたしも、そうなること、よくあります」
セリナは、紅茶のカップを両手で包み込みながら、そっと笑った。
その指先が、湯気の向こうで一瞬だけ止まったのを、アキラはなんとなく見ていた。
「“なんて返せばいいんだろう”って考えてるうちに、時間が経ってしまって。
気まずくなって、さらに返しづらくなる……そんなときって、ありませんか?」
アキラは少し驚いた顔をしたあと、うなずいた。
「……あります。ていうか、たぶん僕も、それやったことあります」
「でしょう?
だから、その子も“あなたが嫌い”とか“興味ない”とか、そういうことじゃないと思うんです」
「……だといいけど」
「だといいな、で止めておくのも、やさしさですよ」
セリナの声は、まるで少し冷めかけた紅茶のように、あたたかさの余韻を残していた。
📘構文解説|“返ってこない”の向こうにあるもの
LINEの返信が遅い。
それは、冷たい拒絶ではなく、相手の中で言葉がまだ育っていないだけかもしれません。
「どう返そうか迷っている」
「忙しさに埋もれて忘れてしまった」
「感情を処理する時間が必要だった」
どれも、“関係を壊したくない”という気持ちから来る静かな沈黙です。
それを「脈なし」と切り捨てず、「その人のペースも、言葉の一部」だと思えるとき、
やさしさは“待つ強さ”へと変わります。
🔚余韻|お茶の温度が教えてくれること
「セリナさん、待つのって、こわくないですか?」
「こわいですよ。待って、何も返ってこなかったらって、すごくこわいです」
彼女はそう言ってから、そっと笑った。
「でも、わたしは、“急いで返された優しさ”より、“迷ってでも選んでくれた言葉”のほうが、好きなんです」
アキラはスマホを伏せた。
今日だけは、もう送らなくていいかもしれないと思った。
テーブルの上。
ふたりの紅茶の湯気が、ゆっくりと、空気の中に溶けていった。
【今日の火種】


ミリア
セリナは、自分が“気にしすぎてるな”と気づいた瞬間、ぎゅっと指を組むんです。
……まるで、自分を包むみたいに
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