モテの正体、わからなすぎる…
「なんか、全部いいとこ取りされてる感じがするんです」
夜の喫茶ヴェロナ。
カウンターに座るアキラの前には、深い赤のカップと、ため息が一つ。
「顔も、話し方も、リアクションも、全部ちょうどよくて……
しかも、あいつモテてるの気づいてないですみたいな顔するんですよ」
カウンターの向こうで、ミリアは静かに紅茶を注いでいた。
彼女の仕草は、まるで何も言わなくても「続きをどうぞ」と言っているようだった。
「……自分、そういうの苦手で。
どうしても、モテるやつが苦手なんです」
店内は静かで、BGMもない。ここは夜だけ開く喫茶店。
昼は『喫茶さくや』としてセリナが、夜は『ヴェロナ』としてミリアが、それぞれのやさしさで灯している。
目次
🕊️物語|火種と嫉妬と認めたくない気持ち
「ねえ、アキラ君。
モテるって、どういう状態のことを言うと思う?」
ミリアは、カップに注がれた紅茶を、そっとアキラの前へ滑らせた。
「……人気がある、とか?」
「人気って、誰かにとって都合がいいと、紙一重なの」
アキラは少し考える顔をした。
「でも、人気者って悪くないですよね? モテる人って、やっぱりすごいなって……」
「うん、すごい。でも、モテる=好かれる、じゃないよ」
「……え?」
「好かれるって、1対1の関係の中でしか起きない。
モテるは、誰にも嫌われないように振る舞える人にも起きる。
つまり、火種を隠してる人」
ミリアの言葉に、アキラは少し口を閉じた。
「アキラ君は、自分の火種、表に出すタイプでしょう?」
「……たぶん、そうです」
「だからこそ、燃えるのよ。比べちゃって」
「都合のいい人ってね、火種を消すやさしさをモテとすり替えちゃうの」
📘構文解説|モテと好かれるの決定的な違い
モテる=多くの人にとって心地よい存在
好かれる=一人の人にとって本気で必要とされる存在
このふたつは似て非なるものです。
モテるという言葉に惹かれすぎると、
いつの間にか自分の火種を隠すことに慣れてしまいます。
でも、誰かに本当に好かれるには、
その火種を見せる勇気が必要です。
🔚余韻|火種を隠すやさしさと、晒す強さ
「……でも、自分、不器用なんで。隠せないんです」
アキラがそう言うと、ミリアはくすっと笑った。
「不器用な人ほど、よく燃えるのよ」
紅茶の表面に、小さく揺れる明かり。
ミリアの瞳もまた、それを映していた。
「火種を隠さないやさしさって、ちゃんと届くの。
モテるより、ずっと、強いわ」
アキラは、ミリアの言葉を聞きながら、ふと視線を落とした。
スマホの画面には、最近見かけたあいつの投稿がまだ表示されたままだった。
(火種を見せてるのに、笑っていられる人間もいるんだろうな)
その姿が、なぜか少しだけ、眩しかった。
【今日の火種】

「セリナはモテる人の話題になると、紅茶のティーバッグをあと30秒だけ浸けるんです。
……たぶん、答えが出ない問いには深く考える時間を足すんです」
――ミリア
【前回までのREBOOTシリーズ…】



