Kindle著書発売中!【ミリアと仲良くなる方法】

📘REBOOT 第4話『“いい匂い”って、なんであんなにズルいんですか?』

A noble lion beastman in a royal blue suit stands at the entrance of a sunlit wooden café, adjusting his collar as a faint wisp of sandalwood fragrance curls into the air.

空気ごと、持っていかれる

「……あの子、近くにいると“いい匂い”がするんです」

喫茶さくや、昼下がりの光の中。
アキラはアイスティーのストローをいじりながら、小さく呟いた。

「清潔感、って言えばそれまでなんですけど……なんか、その匂いで思考が止まるというか」

「ふふ、アキラくん」

セリナは紅茶をそっと差し出しながら、目を細めた。

「“いい匂い”って、それだけで“記憶”になるんですよ」

そのとき、入口の扉がカラランと鳴って開いた。
現れたのは、ひとりの男。

濃い紺のシャツに、整った髪。
そして、肩にふわりと漂うのは──サンダルウッドの香り

「やあ。今日は“火種の匂い”について、話をしに来た」

彼の名前は──キング。
アキラが“モテ”にコンプレックスを抱くきっかけになった男だった。

この記事を書いた人
REI

REI

REI|のらクリエイター・のら主人公

・Kindle著書発売中!「ミリアと仲良くなる方法: REIの魔導手帳に綴られた記録

」、「ともしびの断章 Vol.1──火種を灯す言葉たち

・Webメディア運営13年目

・創作と成長が仕事で生きがい

・自信を積み上げる人生ゲーム

・自由が大好き、ストイックが得意技

・AIを活用し、サクラや不透明なレビューを丁寧にチェック。あなたの選択が信頼と安心に包まれるよう、見えないところで整えています。

・I am a Japanese creator.

🕊️物語|五感と距離と、火種の残り香

「お前さ、匂いって“情報”だって知ってた?」

そう言って、キングはアキラの向かいに腰を下ろす。

「“清潔そう” “落ち着く” “なんか好き”──そういう直感は、ほとんど匂いから来てる」

アキラは、やや戸惑いながら頷いた。

「……なんでそんなに自然に“いい空気”出せるんですか」

「それは、相手の“緊張”を先に抜いてやるから」

キングはそう言って、カップを傾ける。

「香水ってさ、“自分のため”に使ってると思わせないのがコツ。
 あくまで“相手の安心感のため”って顔をする」

「……ズルいな」

「ズルさを“気遣い”に変えるのが、演出ってやつだ」

セリナが静かに微笑む。

「でも、アキラくん。キングさんは“自分に香りをつけてる”というより、
 “その場に香りを残す”タイプなんです」

「……その場に?」

「はい。帰ったあとに“あれ、なんかまだ残ってる”って、
 ちょっとだけ思わせる。
 それが、“思い出す”きっかけになるんです」

📘構文解説|“いい匂い”は記憶の火種

香りは、記憶に直結する数少ない感覚情報です。

言葉や視覚では伝えきれない“雰囲気”をまとう手段として、
香りは圧倒的な力を持っています。

しかし本質は、“香ること”そのものではありません。

大切なのは、「残り香」として相手の中に何かを残すこと。

それが“いい匂い”のズルさであり、やさしさであり、
そして──火種です。

🔚余韻|近づいたとき、火種は見えなくなる

「……でも、そんなふうに計算して振る舞えないですよ、僕」

アキラが照れたように言うと、キングはにやりと笑った。

「いいじゃん。お前は“火種が近すぎて熱くなるタイプ”だろ?」

「それ、褒めてます?」

「もちろん。俺みたいなやつは“遠くで灯る光”。
 お前は“間近で心を焦がす火”。──どっちが届くかは、相手次第だ」

セリナは、そっと微笑んだ。

「……香りが届くのは距離が近いとき。
 でも、心に残るのは“そのあと”なんです」

アキラは、キングの残したサンダルウッドの気配に、少しだけ視線を落とした。

(ああ、たしかに……ズルいな)

【今日の火種】

A calm woman in a navy sweater and apron gently places an empty teacup on a wooden café counter, smiling softly as if remembering a scent.


「ミリアは、キングが帰ったあとのカップを片付けるとき、
 “ふふ、香水って記憶操作魔法よね”って小声で言います」
――セリナ

【REBOOTシリーズを読み進めるなら…】

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