好きなタイプの迷宮
「……なんかもう、誰が理想なのか、わかんなくなってきて」
喫茶さくや、午前の静かな時間。
アキラは、湯気の立つマグカップを両手で包みながら、言葉を探していた。
「優しい人がいい、って思ってたけど……
強い人とか、気まぐれな人にも惹かれたりして……」
カウンターの向こうで、セリナがスプーンでそっとミルクをかき混ぜていた。
彼女は静かに微笑む。
「アキラくん、理想って、いつ誰が決めたものなんでしょうね」
目次
🕊️物語|答えのない問いと、ふたつの光
「昔、こういう人と付き合いたいって、明確に思ってたんです」
「ふふ。それって、今も変わらずですか?」
アキラはしばらく黙って、カップの中を見つめた。
「……なんか、会う人によってあ、この人いいなって思っちゃって」
「そのたびに、理想が変わる?」
「というか、どんどん曖昧になってく気がして。
ちゃんとひとりを選べる気がしないんです」
セリナは紅茶のカップを置き、少しだけアキラに身体を向けた。
「それ、きっと悪いことじゃないですよ」
「……そうなんですか」
「うん。だって、理想の誰かに向かって恋をするんじゃなくて、
誰かを好きになったとき、その人の中に理想を見つけていくってことかもしれないですから」
アキラは少しだけ目を見開いた。
「……そんな考え方、初めてです」
📘構文解説|理想像と惹かれる瞬間は別物
恋愛において、理想のタイプという言葉はよく使われます。
けれど本当は、
「こういう人がいい」と決めていたはずなのに、
「全然違う人」に惹かれてしまうことが、何度もあります。
それは、理想が固定されたものではなく、
好きになった人の中に、あとから見つけていくものだから。
自分で決めた理想に縛られすぎると、
誰かに惹かれるという偶然を受け入れることができなくなってしまいます。
理想は、誰かに会ってから育つもの。
それでいいんです。
🔚余韻|光のグラスに浮かぶ輪郭
セリナが、カウンターの上のガラスコースターに紅茶のカップを置いた。
その下に、光の輪が浮かぶ。
「理想ってね。ふとした仕草とか、笑い方とか……
光が当たった瞬間の輪郭みたいに、あとから見えるんです」
アキラは紅茶を一口飲んで、小さく息をついた。
「……でも、そういう瞬間、ちゃんと見つけられるかな」
「大丈夫ですよ」
セリナは笑った。
「アキラくんは、見ようとする目を、もう持ってますから」
紅茶の香りと、光の輪。
その静かな組み合わせが、少しだけアキラの心を温めていた。
【今日の火種】

「ミリアは、理想の人はどこにいるんでしょうねって聞かれると、
きっと、見落としたすぐ隣にいますよって答えるんです」
――セリナ
【REBOOTシリーズを読み込むなら…】



