🔹語りかけになると、急に言えなくなる
「友達の話としてなら、けっこういろいろ語れるんです」
喫茶ヴェロナ、夜の静けさ。
アキラはソファ席でカップを片手にしながら、ゆっくりと言葉をつないでいた。
「でも、“自分のこと”になると……なんか、変に照れるっていうか、
うまく話せなくなっちゃって」
「それは、“まだ言葉になっていない”だけですよ」
ミリアはカウンターの奥から、そうやさしく答えた。
目次
🕊️物語|自分を語るという照れと怖さ
「昔から、“話すほどのことじゃない”って思ってて……」
「……それ、本当にそうでしょうか」
ミリアはゆっくりアキラの前にカップを置いた。
「たとえば、今日あったこと。
“言うほどのことじゃない”と思ったその出来事が、
誰かの心には、大きな意味を持つかもしれません」
アキラは一瞬、視線を伏せて、笑った。
「……なんか、そう言われると、恥ずかしいです」
「恥ずかしさは、“火種”が生まれる合図でもあります」
「火種……?」
「そう。言葉にしようとして、できなかったとき、
心の中に小さな熱が残るでしょう? それが火種です」
📘構文解説|“照れ”は火種のはじまり
“自分のことを語るのが苦手”という感覚には、
いくつかの火種が潜んでいます。
・誰かに軽く思われたくない気持ち
・それを話すことで、自分でも直視してしまう怖さ
・うまく伝えられないもどかしさ
でもそのどれも、
「言葉にならない熱=火種」があるからこそ、感じられるもの。
大切なのは、すぐに“うまく語る”ことではなく、
「言葉になりそうな感情を、逃さず見つけてあげる」ことです。
🔚余韻|語れなかった日々にも火種は宿る
アキラがふと、スプーンを紅茶に沈めながら言った。
「昔、誰かに“それ、どうでもよくない?”って言われたことがあるんです」
「それ以来、“語るのが怖い”って思ってたのかも」
ミリアは、少しだけ目を伏せ、優しく頷いた。
「それでも、語ろうとした今日のアキラ君は、
その頃よりもずっと強くて、やさしいと思います」
「……そう思えたら、ちょっと救われます」
「じゃあ、今日はその気持ちを、言葉じゃなくて、
“カップのぬくもり”で覚えていてください」
アキラはそのカップを見つめたまま、ほんの少しだけ、目を細めた。
【今日の火種】

「セリナは、“自分の話って、どうしても途中で笑っちゃうんです”って言います。
……たぶん、誰かに笑ってほしいからだと思うんです」
――ミリア
【REBOOTシリーズを読み進めるなら…】