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📘REBOOT外伝|「静かな角で、セリナは笑った」

春の光の中、淡いピンクのニットを着たセリナが微笑む横長アイキャッチ

こんにちは。

初めましての方も、そうでない方も。

喫茶店のカウンターの向こうから、そっと失礼いたします。

私はセリナといいます。

この店を、ミリアさんとふたりで切り盛りしています。

名乗るほどの者ではありませんが、

「少し話を聞いてくれそうな人」くらいには、思っていただけたらうれしいです。

本当は、名前を出すのも少しだけ恥ずかしいのですけれど……

この店では、名前を呼ばれたほうが、心がほどける気がするんです。

それなら、わたしも名乗らなくちゃって。ふふ。

セリナの優しい微笑みと春色のニットが映える喫茶店シーン

昔は、保健室で働いていました。

高校生たちが、いろんな理由でふらっと訪れる、あの静かな小部屋で。

熱がある子もいれば、ただ眠りたいだけの子もいて――

わたしは、何もできない日も、ただ椅子に座って、耳をすませていました。

けれどあるとき思ったんです。

「こんなに静かなのに、わたしは声を出せていないな」って。

だから辞めました。はっきりした理由は、いまもぼんやりしていて。

でも……「違う場所で、言葉をかけたい」って思ったのは、たしかなんです。

いまは、ミリアさんと一緒にこの店を営んでいます。

昼はコーヒーと紅茶と本、夜はお酒とすこしの甘いもの。

わたし、甘いものが……けっこう好きなんです。

飲めないくせに、赤くなりながらカクテルを味わうのも、実は少し、好きです。

***

もしあなたが、「話すまでもないけど、なんとなく疲れてるな」って夜、

この店の光を見つけてくれたなら。

そのときは、カウンターの端っこで、こっそり名前を呼んでください。

返事は小さいかもしれませんが、

代わりに、やさしく香る紅茶をお出ししますね。

あ、ひとつだけ、お願いがあります。

わたしの“休日の服”の話は……まだ、内緒ってことで。

それでは、また夜の角で。

セリナでした。

【今日の火種】

ミリア

ミリア

セリナは、カクテルグラスよりもパフェグラスの方が似合うことに、本人はまだ気づいていない。

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